常連のバーのマスター(同じ年齢)と、いつものように客のいない深夜、何を話すともなく話していると、いつもは感じなかったが、この日は何か感じがちがっていた。
いつも正面から人の目を見て話すようなマスターではなく、ぼそ、ぼそっとしゃべるその感じや、営業トークなどしない、愛想のないところは変らないのだが、
「ある日突然、この仕事を辞めて、誰にも居場所を知らせないで、家賃の安いとこに引っ越して、年金でほそぼそ過ごすっての、考えるなぁ」
「ドアに、”辞めました。探さないでください”と、張り紙をして」
「健康寿命っていうの? あと10年、あと10年しか健康で動けないとしたら、やめてどこかに行きたい・・」
と、マスター。
もう、わがままで、バカで、うるさい客ばかり相手して、いいかげんマヒしてた神経が「これじゃいかん」と立ち上がったかのようだった。
「でもさ、歩けなくなることが、1番、ヤバいと思うヨ」
「歩けないとトイレも行けないし、誰かの世話にならないといけないから、とにかく、足腰だけは丈夫にしておかないと」
と、自分。
人の生き方には良い悪いなんてないから、「そうかぁ、」としか言えないけれど、「足腰だけは大事に」と言った。
普通の家庭持ちで子供がいるわけでも奥さんがいるわけでも、有り余る金があるわけでもない我々にとって、自分しか頼れないということも、忘れてはいけない。